札幌は雨の朝。
しかし天気予報によると、この日は北に行けばやがて雲を抜けるはずだ。
13日目
予定より約1時間遅れて、AM4:30に目が覚める。フランスパンを齧りベビーチーズを5つ食べて、AM5:00にチェックアウト。
札幌から稚内は約330kmを2日間で走るという強行日程を立てていた。この日は約200km近く走る予定だ。ペダルを漕ぎ始めると雨は次第に強くなる。なんでこうなるのか…と思っていると、やがて進行方向の北の空に青空が見えてくる。
石狩川を越えると雨は弱まり、当別川へ近づく頃には完全に雨は止んでいた。
道の駅「サンフラワー北竜」のベンチで昼食を取る。やたらに派手な中華風の竜の門の奥に西洋風の建物があって、それでいて人が全然いないもんだから、何か失敗したバブル期のテーマパークを思わせる。(失礼)
275号線をひたすら北へと漕ぐ。北海道らしい田園風景が続く。233号線へと乗り換えると景色は田園だが、そのなかにポツポツと家屋が現れる。平野に田。一本の舗道。電信柱。少しばかりの家屋。抜けるような青空にわずかの雲。全てが調和していて美しい。人工物までが見事に自然に調和しているのだ。
人為は美しいなぁと思う。
留萌から232号線、かの有名なオロロンラインへ。そして久々の日本海との再会。
ついに交通看板にも「稚内」の文字が現れる。
海は群青色で、青空と野山の深緑の間をオロロンラインがうねりながら伸びる。とても単調な道だ。海風が強くとても冷たい。物悲しい。
PM6:00を過ぎて、羽幌に入った。日も沈みかけていた。とにかく寒い。寒い!体感気温は、夏なのにも関わらず10℃を割っていたと思う。(それもそのはずで、後に調べてみると留萌、少し内陸へ入って旭川をはじめとした上川地方。これらは軒並み気象庁の歴代最低気温ランキングを独占している。日本で一番寒い地域という訳だ。)
そんな寒さの中で野宿をする。道の駅「ほっと・はぼろ」の裏手のバラ園。ドラッグストアで買ったビールと甘い菓子で気を保つ。寒さは気を削ぐから。何か食うことが唯一の楽しみになっている。
・走行時間 12h30m00s(推定)
・走行距離 200.00km(推定)
・積算距離 1238.5km
14日目
寒い…寒い。とにかく寒くて目が覚める。
ヒートテック、Tシャツ、薄長袖、厚長袖、ジャンパーの5枚着である。まだ8月である。それでも寒い。
今日はどうしようか…というかこの旅をどう終えようかと、ここ2,3日考えていた。考えながら昨日の日記を書く。そのうち日が出てきて、少しずつではあるが暖かくなってくる。
でも、それでもまた寒いからとにかく走り始める。おだやかな深青色の海に地元の見慣れた海がダブる。
昨日と同じ232号の道。道路標識を見て「道道~」の文字、一瞬「?」。
…ああ、「県道」のように。なるほど。北海道では「道道」なのか、と納得。
延々と続く232号の同じ景色に「道道巡り(堂々巡り)」なんて言葉が浮かぶ。一人遊び。
天塩から海沿いの道へ。そして、サロベツ原野経由で稚内を目指す。バイカーがとにかく多い。そしていくらかチャリダーも。ここまでくると、ほとんどの人が手をあげてあいさつをしてくれる。面倒くさくなるくらいに。
利尻島と礼文島がすぐ目前に迫り、やがて少しずつ離れていく。「利尻島と礼文島へ行こう。」両島を見ながら、この時決意は固まっていた。
原野にひたすら延びる道。何もない退屈な道。キツかった。
PM4:00すぎ、遂に稚内市街へ達する。さびれた町かとおもいきや、予想以上に発展していて驚かされる。ちょうど小中学校の下校時間に重なる。子どもも沢山いるらしいことが分かる。「すき家」「白木家」などのチェーン店も目につく。何より、駅・商工会議所の建物がやたらと立派だ。
こんな日本の最北の地に街があって、そこで人々がごく普通の地方都市的社会生活を営んでいるということに驚かされる。
夕食は「チャーメン」なる稚内のB級グルメ(?)を食う。旨かった。
ノシャップ岬の公園にテントを張る。テントサイトのはずだが…誰も張っていない。というか、公園の中にパターゴルフ場があって、そこに大量に鹿がいる(笑) うん、訳がわからない。
おまけに、朝になったらテントの周辺まで近づいてきてるし(笑)
なにはともあれ、今後の計画を立てる。
ちょうどこの頃、礼文島に50年に1度という豪雨が降って、土砂崩れにより死傷者が出ていた。このニュースで数日前から知っていたのだが、被害は予想以上で、未だ道路も寸断状態ということが俄に分かってきた。オロロンラインを走っている時も、何度も頭上に礼文島へと飛ぶ自衛隊のヘリコプター音を聞いた。
日本最北端の島、礼文島から青い海を見たくもあった。だが、今は断念せざるを得なかった。
明日、朝一で利尻に向かう。そして利尻で一泊した後、稚内に戻る。そして宗谷岬を目指そう。
日が落ちた。日本最北端の温泉「童夢」の湯に浸かる。
PM9:00すぎ、暗闇の中をノシャップ公園へと戻る。オロロンラインを駆け抜ける"旅のハイライト"が終わったんだな、としみじみと思う。風は強いし、誰も居ないけれど、ゆっくりと眠れる。
おやすみなさい…
自然というものは、意味のないものだとおもった。
それはよくみがかれた鏡のようなもので、存在の反応を確かにさせる非常に便利なものだと思った。
―辻まこと『山の声』より
・走行時間 7h00m00s(推定)
・走行距離 132.00km(推定)
・積算距離 1370.5km